「まず、パンのおいしさは舌で感じる『味』だけではないんです」と話す小倉さん。
「味わいプラス、鼻に抜ける『風味』と歯で感じる『食感』。このバランスが美味しいパンにとって何よりも重要なんですよ」とのこと。
ちなみに「味」についても、小倉さん流・良いパンの見極めポイントがあるようです。
小倉さん曰く、「甘い味付けのパンでなくても、美味しいパンは甘いです。これは小麦の甘みだと思うのですが、そうですね……お米をずっと噛んでいると、甘みを感じますよね。それに近いものがパンにもあります」。
ーーーでは、口に入れないと甘みのある美味しいパンかどうかはわからない?
小倉さん「パンの焼き色を見るとわかることがありますよ。色々みてきましたが、小麦の甘さを感じられるパンって、表面の茶色が濃い部分と薄い部分の強弱がしっかりしていることが多いと感じます」。
「甘さを感じる糖分がパンに残っており、それがパンを高温で焼き上げる過程で反応したからではないかな……と僕は思っているんですけどね」。
ーーーなるほど、焼き色の強弱がわかりやすい、表情が豊かなパン!これまで意識して見たことはありませんでした……!
ーーー……すみません、「風味」と「味」っていままで分けて考えたことがなくて、わからないです。
小倉さん「鼻から抜ける『香り』の方がわかりやすいかもしれません。パンの場合、決め手のひとつが『酵母』なんですよね」。
「とくに『自家製酵母』にこだわっているパン屋さんは、パンの風味に特徴を持っていることが多いんです。酵母って、植物や樹液、野菜や果物の表面とか、自然界のいろんな場所に存在していて、コントロールが難しい。お店によってクセが出るんです。それが面白くて」。
ーーーでは、小倉さんがパン屋さんを巡っていて“印象的”だった自家製酵母はありますか?
小倉さん「鳥取県にある『タルマーリー』というパン屋さんですね。ここはビール酵母でパンを作っていて……、クラフトビールも作っているんですけどね。パンはなんとも特徴的な風味なんですよ、『タルマーリー』のパンだ!って一口食べればすぐに分かる」。
小倉さん曰く、“野生の酵母”だけでパンを作ることにこだわっているお店もあるのだそう。
たとえば、その土地でしか得られない酵母、なんていうのもありそうですし、思わず日本中のパン屋さんに思いを馳せてしまいますね……。
小倉さん「食感に大きな影響を与えるのって『焼き方』だと思っていて」。
ーーー何分焼く、みたいな話ですか?
小倉さん「そういうレシピも当然影響あると思います。ただ、“薪火”で焼かれたパンというのが絶品なんですよ」。
現在日本で、パンの焼き窯(オーブン)といえば、ほとんどのお店の場合、電気かガス製品。
小倉さん「薪火窯って、高温で一気に焼くので、生地の水分を逃さないんですね。つまり、外カリッと中モチモチのギャップが強いパンができるんですよ、食感が全然違いますよ」。
ーーー薪火窯のパン屋さんって、あまり見かけない……ですよね?
「薪火窯は広い場所でないと設置が難しいですし、そもそも設置NGの施設もあるはずです。
薪火窯を使うパン屋さんは、地方でないとなかなか出会えません。都内ではちょっと、思い浮かびませんね」。
「そうそう、薪火窯のパン屋さんにお邪魔するとね、お店の外壁に薪が積まれていたりしますよ」。
ーーー『ヘンゼルとグレーテル』みたい……。
ーーー小倉さんは500店もパン屋さんを巡っているから、わかるかなと思って聞くのですが……こう「店構え」で美味しいパン屋さんってわかったりしませんか?
小倉さん「え!?わからないですね(笑)外観だけではさすがに。
ただ、ラインナップからすれば、ハード系のパンが目立つところに並んでいるパン屋さんは期待できます」。
ーーーハード系……バゲットとかですよね。なぜ期待できるのでしょう?
小倉さん「シンプルな素材で作るバゲットやカンパーニュ、いわゆるハード系のパンは、お店によってかなり味に差が出ます。なので、シンプルな素材を活かす自信のあるパン屋さんはハード系を『買ってください!』と目立つ位置に置く傾向が強いと思いますね」。
ーーーたまに花瓶に生けた花束みたいに、ドーンとバゲットが置かれているパン屋さんがありますね!
小倉さん「そういうパン屋さんは、だいたい何を食べても美味しいです!」。
ーーーへー!これならお店を覗くだけで「美味しいパン屋さん」が見分けられそうです。勉強になりました!
インタビューの後、小倉さんが全国のパン屋さんを巡ってとくに印象に残ったという“推しパン屋”を教えてくれました。
小倉さん「こちらのパン屋さんをお薦めする理由は、小麦の味わいをしっかり感じられるからです。特に、バゲットを食べてみてください。同店のバゲットは、まさに小麦を食べているという感覚を味わうことができます。オーナーの千葉シェフは、パン業界のレジェンド、シニフィアンシニフィエ志賀シェフに影響を受けたとインタビューで語っており、志賀シェフは小麦の素材の味を引き出す第一人者の1人です」。
【店舗情報】
店名:And Bread kitayama(アンドブレッドキタヤマ)
所在地:京都府京都市北区上賀茂高縄手町88-3
▶︎ 「And Bread kitayama」公式Facebook
小倉さん「ソフト系からハード系、菓子パン、惣菜パンなど種類が豊富で……、目移りしてしまうパン屋さんなのですが「牛すじカレーパン」がとんでもなく美味しいのでご紹介させて頂きました。カレーフィリングはなんと手作り。カレー粉はスパイスをミルで挽いて独自に作ってしまうというこだわりです。是非一度食べて頂きたいと思います」。
【店舗情報】
店名:Boulanger Kaiti(ブランジェカイチ)
所在地:福岡県福岡市南区高宮3丁目7-4
▶︎ 「Boulanger Kaiti」公式Instagram
小倉さん「数々の薪火のパン屋さんを訪れましたが、中でも特に印象的だったのが北海道の小樽にあるエグ・ヴィヴというパン屋さんです。目の前が海で、まさに崖の上のパン屋さんという素晴らしいロケーション。お店に入ると、パンの香ばしい匂いがプンプン。薪火でじっくり焼かれたパンは、外側はバリっと香ばしい食感。一方で中の生地はモチっとしており、食感を楽しみ倒せるパンを提供されています」。
【店舗情報】
店名:Aigues Vives(エグ・ヴィヴ )
所在地:北海道小樽市忍路1-195
▶︎ 「Aigues Vives」食べログ
北海道から沖縄まで、全国のパン屋さんを巡ったという小倉さんにパンのお話を伺いました。
パンの美味しさをここまで分析されているとは、想像以上の奥行きでした。
地元の美味しいパン屋さんのパンで、充分幸せな気持ちを感じていた筆者でしたが、ここまで奥が深いと知ってしまったからには「自家製酵母」や「薪火窯焼き」のパンも食べてみたくなりました。
全国には、わたしたちが知らないパンがまだまだたくさん!
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