お店を営む村井さんがパン職人を目指したのは、シンプルに「パンが好き」だったから。オープン当初から二人三脚でお店を支えてきたお母様曰く、「昔、パンを食べすぎて小麦アレルギーになったほどのパン好き」だそう。
そんな村井さんだが、その経歴は意外なもの。工業高校を卒業後に勤務した造船所で、フォークリフトの操縦をしていたときのこと。将来について考えるなかで、パン屋さんになることを決意したという。香川県内のパン屋さんで経験を積んだのち、東京でも挑戦してみたいと、雑誌に掲載されている人気店をくまなく訪れた。「ここだ!」と思う店には飛び入りで面接を頼んだそう。
「『お前みたいなやつ初めてだよ』と言われたけど、今しかないと思ったんです。」
ご縁があった高級フレンチレストランのベーカリー部門で7年半の修行を積み、ついに念願のお店をオープンした村井さん。
外壁は黒を基調とし、屋根は赤いレンガ造り。奇を衒った威圧感のある外観に、オープン当初は「ペリー来航」と噂されたが、本格的なパンが並ぶと多くの食通に支持されるように。そして瞬く間に、香川県を代表するベーカリーの一つになった。
Le pain de abbessesには、カレーパンやクリームパンなど、パンと聞いて誰もが思い浮かべる定番品は存在しない。例えば地元で採れた野菜をふんだんにトッピングしたフォカッチャや、色とりどりのフルーツがのったデニッシュなどがある。山芋とソーセージ、胡麻とチョコレートなど珍しい組み合わせのパンも多い。香川グルメに新しい風を吹き込んでいるといっても過言ではない。
一番人気かつ村井さんの自信作のパンは、国産バターを100%使用し、サクサクの食感にこだわったクロワッサン。発酵時間の見極めが難しく、自信作といえるまでにはかなりの時間を要したそう。
「クロワッサンはシンプルなパンだからこそ奥が深く、理想の食感や味を出すのがとても難しいんです」。
ちなみに店名の由来は、パンの本場フランス・パリにある「アベス通り」。「ヨーロッパにはカレーパンなどの揚げたパンは存在しない。だからうちにも置いていないんです。」という言葉の通り、たくさんのおいしいパン屋さんが立ち並ぶアベス通りで売られていてもおかしくない、本格的なパンが味わえるのが魅力のひとつだ。
香川県のキャッチコピーに「うどん県。それだけじゃない香川県」がある。パンもうどんも、原料は小麦だ。小麦を愛する仲間として、パンが香川県の特産品になることが今の目標だと、村井さんは言う。常連さんにお話を聞いてみると「関西に住んでいたときによく食べていたようなおしゃれで本格的なパンが高松でも食べられるのが嬉しい」と語っていた。地元に愛されてこその特産品といえる。村井さんの目標が達成される日も、そう遠くはなさそうだ。
一流のパン屋さんでの修行を経て、東京で店を構える選択肢はなかったのかと尋ねると、こんな答えが返って来た。
「香川に帰ってきてふと空を見上げるとね、星がきれいで、都会にいる場合じゃないなと思ったんです」村井さんの地元を愛する気持ちが、よく伝わるひと言だ。異色な店構えと型破りなパンが香川の人々に愛される理由は、村井さんの技術は元より、人柄にもあるのかもしれない。
香川 Le pain de abbesses
〒760-0079 香川県高松市松縄町1143-29
https://www.instagram.com/le_pain_de_abbesses_/
(2023年9月取材時の情報です)
お店がセレクトしたパン 8個前後(3,132円 税込)
+パンの旅費(全国一律858円 税込)
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